「自治体案件を受託することができれば、ガッポリ稼げるのでは?」 IT商材を持つ企業の方々から、そんな声をよく耳にします。
確かに、自治体予算は規模が大きく、一度受注してしまえば安定したビジネスになるイメージがあるかもしれません。しかし、実際の地方自治体案件はそこまでスムーズにいくものではなく、そこには複雑な現実があります。
今回は、自治体ビジネスにまつわる大きな誤解と、それでもなお、自治体とのプロジェクトへ取り組むことへの価値についてお話しします。
自治体の予算獲得の難しさ
地方自治体と一緒に何かプロジェクトを進めていく場合、大きく分けて2つの予算を頭に入れておく必要があります。
- 自主財源: その自治体の税収などから捻出するもの。
- 国からの補助金・交付金: 中央省庁(総務省や経産省、官公庁)などから特定の施策のために都度申請し、財源を得るもの
また上記2つの予算どちらにせよ、使い道に関しては「地方議会の承認」というハードルがあります。ここの承認プロセスは、民間企業のように「短期的に利益が出そうだから」という理由だけでは通らないようになっています。
「その施策は地域住民にとって、利益と公平性の実現に繋がるのか?」「特定の企業だけを優遇をしていないか?」など、民間企業とは違った審査の観点があります。
この観点が抜けている提案は、どんなに優れた利益や効果を叩き出すITサービスであったとしても、予算承認にはならないというのが自治体ビジネスのリアルです。ここの予算獲得に関してが、多くの民間企業がハードルと感じる最初の壁となっています。

決裁者が誰かわからない難しさ
民間企業の商談なら、社長や部門長を口説き落とし、「よし、やろう!」とその一言をいただければ、ITサービスの導入は決まります。しかし、自治体案件には「たった一人の決裁者」は存在しません。
自治体内部の担当課はもちろん、財政課、さらには地域独自のステークホルダー(利害関係者)との合意形成が不可欠です。他にも商工会、地域の金融機関など合意形成には根気と時間と緻密さを費やすことが求められます。
- 商工会議所・商工会: 地元の商流を守る立場
- 地元の金融機関: 地域の資金循環を支える立場
- 地域住民・有力企業: 施策の影響を直接受ける立場
これらのプロセスの中では、「このITツールを導入すれば利益がもたらされる」という今までの営業トークだけでは、これらの様々な利害関係者からの「納得」は得られません。「なぜ、今、この地域で、様々な人々が共に考え取り組む必要があるのか?」という、合意形成のためのストーリー構築が求められるのです。
自治体案件にとって一番大切なこと、それは「地域の人々の生の声」
では、IT企業はどうすれば自治体や地域の関係者との信頼関係を築けるのでしょうか? その答えはやはり「地域の中小企業や地域の人々のリアルな現場や課題感に向き合い続けること」だと思っています。
例えば地域の自治体の職員も、「地域を良くしたい」という熱意は持っています。しかし、意外と個別の企業や地域の現場で何が起きているか、どんな具体的な「声にならない悩み」があるかという「生の情報」に関しては、意外と日々の業務が多忙で向き合えていないことも多いのです。
- 「あそこの工場の社長は、DX(デジタルトランスフォーメーション)以前に事務職の求人で困っている」
- 「この商店街では、決済手数料よりも、決済端末の操作の簡便さを求めている」
こうした「地域の中小企業、住民との繋がり」から得た一次情報を持っている企業担当者は、地域の自治体にとって「単なる営業パーソン」ではなく、地域課題を解決するためのパートナーとなるのです。

自治体との「共創」がもたらす本当の資産
自治体ビジネスは、短期間で大きな利益を上げるための施策にはなり得ません。 むしろ、時間はかかるし、めんどくさいことも多いのが実情です。効率性だけを重視するのであれば、この施策は販売施策の中心に据えるのは正直おすすめはしません。
一方でこの施策にじっくり向き合うことでしか、地域の企業や人々からの「良い企業だ」というイメージはつかないとも感じています。それはなぜか?自社の商品のメリットや機能の訴求だけでなく、地域の課題や社会のことを真剣に考える企業のことは、地域の人々は大切にするからです。
地道に思えるかもしれませんが、地域に根を張った活動こそが、結果として「代わりのきかないITパートナー」としての地位を築く唯一確実な道なのかもしれないと、最近は思います。
地域でのITビジネスの販売を目指していくうえで、ときにはこのような短期の施策とは違った視点も持つこともぜひお勧めしたいと思います。