東京と地域、大手から中小まで、様々な人たちと向き合ってきたなべさんが語る、知られざる中小企業の「リアル」。ITの力を味方につけ、現場の熱意を価値に変えていく――。そんな姿を後押しするため、これまでの経験や想いを綴ります。
東京の会議室で感じた「強烈な違和感」
はじめまして、なべさんです。現在は故郷の福島から子育てや育児の関係もありリモートで、東京のKDDIウェブコミュニケーションズというIT企業で働いています。
私はこれまで、10以上の新規事業を立ち上げてきました。スタートアップの最前線で戦い、刺激的な日々を過ごしてきました。しかし、そのキャリアを重ねるにつれて、どうしても飲み込めない「ある言葉」を耳にする機会が増えました。
「中小企業のおっちゃんたちに、ITなんて理解できないでしょ?」
東京の綺麗な会議室で、コンサルタントや投資家たちが口にする、中小企業への冷ややかな視線。まるで「中小企業は救いの手を差し伸べてやるべき弱者がいる所だと言わんばかりの態度。日本の経済を支えているのは殆どが中小企業なのに…
私はそのたびに、腹の底から湧き上がる違和感をぐっと抑えていました。 「違う。あなたたちは、何も見ていない」と。

被災地の夜、PC画面を睨む「職人」たちの目
私のその確信は、2011年3月11日以降、決定的なものになりました。
震災を機に福島へUターンした私は、風評被害に喘ぐ旅館や民宿の事業サポートのお仕事を担当しました。そこで目にしたのは、「中小企業はITリテラシーが低い」と揶揄される人々の、真の姿です。
明日の客が来るかもわからない。まさに生きるか死ぬかの状況下。 今まで包丁や接客に命を懸けてきた親父さんや女将さんが、慣れない手つきでマウスを握り、深夜までパソコンと格闘していたのです。
「なべさん、この操作はどうやるんだ?」 「ブログで何を発信すれば、うちの魚の旨さが伝わるんだ?」
彼らは「わからない」から諦めていたのではありません。「教わる機会」と「適切な道具」に出会っていなかっただけなのです。 泥臭く、必死に、自らの商売を守ろうとするその姿。そこにあったのは熱い、ビジネスへの執念でした。

誤解されていたのは「能力」ではなく「環境」
私が感じていた違和感の正体、それは「ITの力が足りない」のではなく、「ITという武器が、彼らの手に馴染む形で届いていなかった」ということでした。「中小企業はイノベーションができない」のではありません。 「中小企業こそが、イノベーションの最前線になり得る」のです。
ITを、誰もが使える「当たり前」の道具に
だからこそ私は今、KDDIウェブコミュニケーションズで働いています。
「ITで明日のビジネスにある当たり前をつくる」という理念は、あの日、福島の夜出会った中小企業の皆様の光景と繋がっています。
高額なコンサルタントも、小難しい専門用語もいりません。 必要なのは、中小企業の皆さんの「商売への想い」を、そのまま形にできるITツールです。
この連載では、私が現場で見てきた「中小企業の底力」と、それを最大化するための「自立的なIT戦略」についてお話ししていきます。 「中小企業だから」という古いレッテルを、一緒に剥がしていきましょう。主役は、ITではありません。現場で戦う中小企業の皆さん自身なのですから。